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SRIバイオサイエンス部門の研究開発:革新的な橋渡し的研究開発と商業化

「バイオサイエンス」について、SRI Biosciences部門の最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)へのインタビュー

「バイオサイエンス」について、またSRIバイオサイエンス部門の革新的な橋渡し的研究開発と商業化について、そして人工知能(AI)を活用して現代化学を発展させるための現在と将来の計画、SRIがバイオサイエンス業界で行っている関連業務についてなど、SRI Biosciences部門の最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)Nathan Collins Ph.D.(化学)に詳しく話を聞きました。

まずは、Nathanの経歴をご紹介しましょう。

化学の世界で早くから活躍

Nathan: 高校生の頃から化学に興味を持っていました。人生の中でもかなり早い段階で化学に対して興味を持ち始めて、何よりこの科目が本当に楽しかったのです。理屈抜きで、化学が本当に好きでした。

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SRI Biosciences部門CSO(最高戦略責任者)Nathan Collins

当時から私は化学をバイオサイエンスと関連付けて考えていました。つまり、バイオテクノロジーの開発やその他関連分野への化学の応用について考えていたのです。残念ながら私が高校生の時はバイオテクノロジーはまだ初期の段階でしたが、私は夢を追い続け、イギリスのサウサンプトン大学 (University of Southampton) で化学の博士号を取得しました。博士号取得後はアメリカに渡り、アリゾナ大学で博士研究員(ポスドク)となりましたが、いつかイギリスに戻って産業界で就職するつもりでした。ところが、実際に就職を決めようとした頃はイギリスは不況で、職がなかったのです。結局、サンフランシスコの小さなバイオテクノロジー会社に就職して、それ以来ずっとこのエリアにいます。

Nathanのキャリアと、最終的にSRIに移ったことについて聞きました。

なぜSRI Biosciencesで働くことにしたのか

Nathan:バイオテクノロジーのパイオニアたちは、サンフランシスコで生まれました。ですから、私にとっても自然と居心地が良い環境でした。それまでの私は、営利を目的とした企業で創薬の仕事をしていましたが、「基礎研究」という自分の核となるルーツに戻りたいという思いが強く、少なくとも業界に大きなインパクトを与えるイノベーションにつながるような基礎研究をしたいと思っていました。この点に関して、SRIは非常に強力的でとても良い環境であると思っていたため、SRIで働きたいと思うようになりました。そして、私は2006年にSRIへ入社し、2020年にBiosciences部門の最高戦略責任者(Chief Strategy Officer:CSO)に就任しました。

今後10年から20年におけるバイオサイエンスの展望をNathanに尋ねました。

バイオサイエンスのこれまでの経緯と、これからどうなると思うか?

Nathan:生物学の分野では、現在多くのイノベーションが起きています。しかし、その結果として、化学はますますコモディティ化しています。これは、インドや中国の労働力の活用を見れば明らかで、資格を持ったスタッフが安い賃金で研究を行っているのです。

他の多くの産業と同様に、化学のイノベーションの次の段階では人工知能(AI)とオートメーション(自動化)が関連してくるでしょう。この技術は現在、医薬品業界で実用化されています。実際に、ビッグデータの活用による創薬ターゲットの特定や、より効果的な分子の設計と製造、より効果的な臨床試験の設計など、より迅速かつコスト効率よく医薬品を市場に投入するという観点から、創薬プロセスのさまざまな側面で本格的に普及し始めています。

私は17年ほど前から化学のオートメーションの分野に断続的に関わっており、SynFini™プログラムでAIを使った仕事に注力しています。ですから、近年オートメーションやAIへの関心が高まり始めたとき、私たちは良い立場にいたのではないかと思っているのです。

Nathanはヘルスケアとオートメーションについてさらに言及しました。

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ヘルスケアと自動化の未来はどのようになるのでしょう

医薬品業界は全般的に、他の業界に比べてオートメーションの導入が若干遅れ気味です。保守的な風潮であり、変化に対して抵抗があることが多く、この業界には厳しい規制が課せられていることから変化に対応するスピードも遅いです。そんな中、新しいテクノロジーのインパクトは予期せぬ結果をもたらすことがあります。最終的には人の命にかかわることですから、医薬品は多くの試験やトライアルが必要とされています。

しかし、薬を市場に出すにあたり、創薬プロセスというのは中でも非常に費用のかかる部分でもあります。最新のレポートによると、業界全体の失敗を考慮した場合、効果のある医薬品を上市するには平均して約26億米ドルのコストがかかるとのことでした。このレポートによると、2018年時点の投資収益率(ROI)は約1.9%で、これが正しいのであれば、投資信託に資金を投入した方が収益率が高いということになります。

この業界は現在コスト構造を見直しており、研究開発のコストをいかに削減するかを検討しています。アウトソーシング(外部委託)は引き続き見込みはありますが、オフショアリング(海外移転、海外委託)はコスト面での優位性を失いつつあります。業界が今こそ目を向けるべきなのは、プロセスの自動化をできる限り効果的に進めることです。オートメーションは、医薬品の上市までのプロセスを加速させ、費用対効果を高めます。

創薬におけるAI活用の課題とは

AIを使えば人間と同じことをするだけでなく、もっと速くできます。問題は、非常に優れたデータセットを必要とする点につきます。そして、このようなデータセットがなければ、人間が得意とする多くの外挿を行っていますが、機械はそれほど得意ではありません。

特にライフサイエンス(生命科学)においては、AIをどこで適切に活用できるかを検討する必要があります。AIはこれまで、MRIやX線、CTスキャン、ハイコンテンツな細胞スクリーニングなど画像データの解釈にて、その有用性を発揮してきました。このような応用例では、通常は数百万から数十億のデータポイントがあり、それを使ってAI予測モデルを構築することができます。例をあげると、人間が見逃してしまうような複雑な情報を抽出したり、よりデータに基づいた診断をしたりすることができるのです。

一般的に、創薬の分野では、有望と思われるデータポイントが2~3百あればよい方です。このため、AIによるモデリングでは外挿が非常に難しく、私たちはこれを「“sparse data problem”(データが疎である問題)」と呼んでいます。

AIアルゴリズムについて、またこのような状況に対していかに最適化するかについてはいくつかの考え方があり、私たちはまさにこれをSRIで実践しています。また、データを使ってモデルを構築し、AIモデルから得られた仮説の成果を実験的に検証することも可能です。データセットを改善し、それを反復してフィードバックすることで、本質的に実験的なフィードバックによってより良いモデルを構築することができます。

より良いモデルを構築する過程では、より良い分子を作ることから始めます。これは現在、医薬品化学が反復設計を通して手作業で薬剤候補を確認している方法に非常によく似ています。しかし、これを今AIとオートメーションを使って行うと、設計から実際にデータを取得して、次のモデルを考え出すまでのサイクルタイムが格段に短くなります。そこで私たちは、実際に分子を作って試験を実施する自動化プロセスを考案し、データが少ないというAIが抱える課題を補えると考えています。そうすることで、薬の候補を見つけるためのプロセス全体的がより良いものになるのです。

この他にも取り組んでいることについて、Nathanに聞いてみました。

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SRI Biosciencesが取り組んでいる最も注目すべき変化やブレークスルーは何か

SynFini™はここ3~4年(2020年当時)、Biosciences部門で取り組んでいる一連のプロジェクトの1つです。SRIの将来のビジネスとして期待される技術のパイプラインを構築することに取り組んでいます。

その第一弾が「FOX Three分子誘導細胞標的化システム(FOX Three Molecular Guidance System™」です。これは、生物学的製剤の候補となる物質を標的の細胞内にデリバリーするために使用されます。私はSRIのディスカバリーグループを担当していた時に、「このプロジェクトを優先させよう」と決めて、そして大きく前進させました。このシステムを研究しているチームには、Kathlynn Brown(と彼女のチーム)、そしてMelissa Wagnerなどがいます。私たちは、このシステムに対する市場の関心を高めるには、これをどのように位置づけて開発するのが良いのかということに焦点をあてて取り組んでいます。現在は多くの潜在的なパートナーとともに、この技術の原理検証の段階にあります。私たちは、この技術とプラットフォームを非常に盤石なビジネスに発展させることができると信じています。

そして、もう1つのプロジェクトの光ファイバーアレイスキャン技術(Fiber-optic Array Scanning Technology:FAST)は、薬の候補を極めて高い処理能力でスクリーニングする方法です。この技術はまだ検証中ですが、とてもエキサイティングなものです。

SRIで働くことを研究者に勧めたいと思いますか

SRIで働くことの面白さは、非常に大きな問題に取り組めることです。SRIにはさまざまな能力を備えた人材が非常に多く揃っています。もしSRI内のハードウェアやソフトウェアのエンジニア、分析化学者、計算化学者などの協力がなければ、SynFiniプログラムは実現できなかったでしょう。特にライフサイエンスに応用されていない他の技術にまたがるさまざまな知識は不可欠で、極めて重要なものでした。SRIでは、これらのチームが協力し合って大きな問題に取り組み、解決に導いています。

SRIのインタビューシリーズ「Dish TV」では、NathanがSynFini™の自動化学プラットフォームについて話している様子をご覧いただけます。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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