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SRIの75年間のイノベーションについて:がんの研究 〜がんとの闘いにおける、治療法と治療実施メカニズムのイノベーション〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

がんとの戦いにおけるSRI Internationalの貢献について

2018年、世界中で確認されたがんの患者数は1,800万人にのぼりました。この数字は2040年までに2,750万に増えることが予想されています。がんは、病に苦しむ患者自身として、またはがんを患った愛する人を支える立場として、私たち全員に影響を及ぼすとても恐ろしい病気です。

1950年代以降、新たな治療法が開発されてがんは生存可能性の高い病気になり、多くのがん患者において5年生存率は大幅に向上しました。

1950年代から現在に至るまで、SRI Internationalはがん治療の開発に大きな革新をもたらしてきました。今回のブログでは、SRIのチームによるがんとの闘いにおける、画期的な発見のほんの一部をご紹介します。

がんに焦点を当てたSRIのプロジェクト例について

1960年:ビダラビン(Vidarabine)

カリブ海で2つのヌクレオシド(塩基と糖が結合した化合物の一種)が単離した海綿動物が発見され、1960年にSRI Internationalのバーナード・ランドール・ベイカー研究所(Bernard Randall Baker lab)で「ビダラビン」が合成されました。ビダラビンには、ウイルスのDNA合成を阻害するという機能があります。このメカニズムを利用して、腫瘍細胞におけるDNA複製を阻害することが可能です。時に、がんなど特定の病気を対象とした医薬品に、他の病気への有効性も発見されることがあります。そして、ビダラビンもそうでした。ビダラビンは、出血性膀胱炎、水疱瘡、帯状疱疹など、他のさまざまな疾患に適応となっています。ビダラビンは1977年、全身治療に関して認可された最初の抗ウイルス剤となりました。

1986年:チラパザミン(Tirapazamine)

チラパザミン、またはフルネームで「3-アミノ-1,2,4-ベンゾトリアジン-1,4-ジオキシド(3-amino-1,2,4-benzotriazine-1,4 dioxide)」は、スタンフォードがん研究所(SCI: Stanford Cancer Institute)の研究者たちと共同でSRI Internationalにより1986年に開発されました。この試験薬は、腫瘍細胞で通常見られる低レベルの酸素(低酸素性腫瘍)で作用するという画期的なものでした。その後SRIとSCIのチームは、SRI Biosciences-スタンフォード創薬および開発プログラムの創設に至ります(2015年設立)。このプログラムでは、がんやその他の症状を治療する新たな方法を開発するため、2つのグループの専門知識を結集しています。

1999年:タルグレチン®(ベキサロテン)/Targretin® (Bexarotene)

1999年、FDAは皮膚T細胞性リンパ腫の治療におけるタルグレチン®の使用を認可しました。これは免疫系の希少な疾病であり、感染症と戦う白血球の一種であるT細胞ががん化し、皮膚や血液に影響を及ぼすものです。タルグレチン®はレチノイドと呼ばれる化合物の一種で、ビタミンAもレチノイドの一種です。タルグレチン®は細胞の成長を遅らせる作用があります。

2000年代:プララトレキサート

プララトレキサートは末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の治療に使用されています。この医薬品は、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)とSouthern Research Instituteが共同で開発をして、2002年にAllos Therapeutics社のライセンスを受けて開発を進めました。このクラスの医薬品にはSRIにおける開発の長い歴史があり、がん治療へのイノベーションに対するSRIの献身的な姿勢を示す一例となっています。プララトレキサートのFDA承認時の記事には、コラボレーションの重要性と開発の歴史について触れている文章がありました。

「代謝拮抗薬(葉酸阻害)の分野における長期的な医薬品化学プログラムにより、特定の種類のヒトのがん治療について、臨床的な有効性を示す医薬品を開発できたことを嬉しく思います」「これは、Southern Research Instituteとメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの化学・分子治療の研究者の皆さんと、SRIとの長年の協力を通じて達成されました」ーJoseph DeGraw博士とWilliam Colwell博士(両名共に元SRI International所属)

がん治療に関するSRIの現在

SRIはがん治療の分野で、イノベーションを続けています。様々ながんのバイオマーカーの早期発見と、新たながんワクチン・免疫療法の特定に特に注目をして、がんと戦う手法を開発しました。この分野における最近のSRIの取り組みの一部をご紹介します。

血管新生阻害薬(Angiogenesis inhibitor), SR16388

SR16388は、血管新生阻害薬として作用する新しいステロイド化合物です。SR16388の開発は、様々ながんにおける新しい血管を形成する過程の阻害に関する、数十年にわたる過去の研究がベースとなりました。SR16388には、エストロゲン受容体-α(ER-α)および-β(ER-β)への結合親和性があります。肺がんと前立腺がんにおける血管新生阻害の治療法として治験が行われました。SR16388は、増殖するがん細胞に酸素と栄養素を供給する新しい血管の形成を阻害することによって作用します。

合成致死性を利用したがん治療の研究

何か問題が発生した際のDNA修復中に、がんが発生することがあります。これが起きると、不完全なDNA修復の間に発生した腫瘍細胞が、生き残るための代替経路を作ります。「合成致死性」とは、これらの代替経路が2つ以上の不活性化した遺伝子と同時に阻害されると、腫瘍細胞死が起きる現象のことです。この現象は、腫瘍細胞の遺伝子変異の相互作用を標的とした抗がん剤治療法の開発のため、がんの治療へ活用が可能です。

SRIは、標的療法の分子標的を特定するための「合成致死性(Synthetic Lethals)」に関するプラットフォームを展開しました。がんの薬剤感受性を予測するバイオマーカーの検出に利用できるプラットフォームです。検出の基盤として人工知能(AI)を使用し、人工モデルではなく原発腫瘍データをトレーニングモデルとして用います。創薬標的の組合せが拡大したことで、これまでは治療が不可能だったがん治療に必要な、そして有効な医薬品の発見を推進することができます。SRIの「合成致死性に関するプラットフォーム」は、急性骨髄性白血病、乳がん、腎臓がん、肺がんの主要な再発性変異のin vivo(生体内)腫瘍モデルに活用されています。

「FOX Three分子誘導システム」とがん

一部の治療用化合物は、大きすぎて腫瘍細胞に入ることができません。そのため、細胞内の標的は「アンドラッガブル-undruggable (創薬が極めて困難)」になります。SRIの「FOX Three分子誘導細胞標的化システム」は、細胞システムにおける「サイズ」という問題を克服できるよう設計されました。SRIはこのシステムを使用して、新しい免疫療法「標的抗原負荷リポソーム」(TALL: Targeted Antigen Loaded Liposomes)を開発しました。TALLは、がん免疫療法の主要カテゴリーであるチェックポイント阻害剤(CKIs)に反応しないがん患者の80%を助けられる可能性があると確認されています。

希望に満ちたがん治療の未来

がんは、個人レベルと医療レベルの両方で引き続き課題をもたらしています。多くのがんの背景にある、複雑な生化学的背景の理解が深まるにつれて、がん治療の将来には希望の光が差し込んでいます。「合成致死性に関するプラットフォーム」や「FOX Three分子誘導システム」を使った標的療法によって、高精度で個人にカスタマイズされた医療の形で“希望の光”を提供します。この先進的な標的療法は、回復への希望を示すだけでなく、負担が少ない軽度の投薬を実施できる可能性をもたらします。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料

Cancer Research UK, Worldwide Cancer Statistics: https://www.cancerresearchuk.org/health-professional/cancer-statistics/worldwide-cancer#heading-Zero

Our World in Data, Cancer: https://ourworldindata.org/cancer#cancer-death-rates-are-falling-five-year-survival-rates-are-rising

SR-4233: A new bioreductive agent with high selective toxicity for hypoxic mammalian cells

Zeman, Elaine M. et al. International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics, Volume 12, Issue 7, 1239–1242

SRI Biosciences and Stanford Cancer Institute Launch Drug Discovery Program: https://www.prnewswire.com/news-releases/sri-biosciences-and-stanford-cancer-institute-launch-drug-discovery-program-300189442.html

FDA Approves Pralatrexate For Treatment Of Peripheral T-Cell Lymphoma: https://www.pharmaceuticalonline.com/doc/fda-approves-pralatrexate-for-treatment-of-0001

The Dish, What if you gave cancer the measles? https://medium.com/dish/what-if-you-gave-cancer-the-measles-a54ccef0304(このブログは、次回のブログにてご紹介します)

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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