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SRIの75年間のイノベーションについて:バーチャル広告の出現(拡張現実の活用) ーテレビ放送向けの拡張現実技術利用の標準形を確立

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしていきます。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

魔法の「ファーストダウン・マーカー」:拡張現実が試合をどう変えたのか

「あの"黄色のライン"ほどファンの試合観戦に影響を及ぼしたデジタルイノベーションは他にないと思います」― ジム・デラニー(Jim Delaney、NFLファン歴35年以上)*

テレビでスポーツ観戦をするとき、映し出された映像がすべて現実のものとは限りません。例えば、アメリカンフットボールのファーストダウン・マーカー。黄色いラインが試合の進行と同時に動いているように見えて、まるで魔法のようです。これは一体どのような仕組みになっているのでしょうか?

試合に関する様々な情報を提供してくれる黄色のマーカーラインは、どう見ても試合の展開に合わせて現実にそこに存在しているかのように見えます。しかし実際には「拡張現実」(Augmented Reality) を使った精密な技術によって、プレー中の映像に追加表示されているのです。
スポーツファンは観戦中に邪魔されることを嫌いますが、情報を得るのは大好きです。ただし、あまりに試合の邪魔になるようだとブーイングが起きます。実際に、“The Billion Dollar Game: Behind the Scenes of the Greatest Day in American Sport”(ビリオンダラーゲーム:米国スポーツ界最高の1日の舞台裏)という本によると、1996年に“FoxTrack Puck”(フォックストラック・パック)または“technopuck”(テクノパック)という新しい技術が登場した際に、ファンからのクレームが起こりました。この技術はアイスホッケーで使用され、パックの周りに青く光る線を描き、観戦者が氷の上のパックの動きを目で追えるようにしました。しかし、ファンはこれを快く思わず、次の試合以降は使われなくなりました。

technopuckに対するファンの拒絶反応は技術・放送業界にとって教訓となりました。試合に拡張現実を取り入れたいなら、非常に巧みに取り入れる必要がある。つまり非常に巧みでありながらしっかり目に入り、そして場に溶け込んでいるものでなければならないのです。その結果、さりげない拡張現実である「ファーストダウン・イエローライン」が誕生し、今では試合の一部になり、更には観戦中にバーチャル広告を表示する技術を生み出しました。

それではL-VIS(Live Video Insertion System:ライブビデオ挿入システム)とは何なのか、そしてどのような仕組みで動いているのでしょうか?

ライブビデオ挿入システム(L-VIS)の背後にある技術

ファーストダウン・イエローライン(L-VIS)の背後にある技術は、試合そのものと似ていて、複雑ですが美しいものです。アリストテレスの言う「全体は部分の総和に勝る」とは正にこのことです。

まず始めに、試合前にフィールドの3D数理モデルを作成することから始まります。このプロセスでは、光の状態を考慮してプレー時のフィールドの色彩マップを作ることなどを行います。選手たちのユニフォームの色もマッピングされます。後でご説明しますが、カラーマッピングはL-VISがイエローラインに“魔法”をかけるために非常に重要です。

プレー中は、3台のカメラがフィールド中を全角度から撮影し、リアルタイムでデータを生成します。次にこのデータを、コンピューターのソフトウェアと専用のアルゴリズムが3Dモデルと組み合わせ、マッピングされた座標を分析して、試合中の正確な位置にラインを引くのです。このラインは、試合の進行に合わせて引き直され、どのような構図でも正しく表示されます。

L-VISの拡張現実は、物体(選手など)がラインを遮る場合に非常に巧妙に機能します。コンピューターが、その物体の上に重なるラインを削除しないと、黄色いラインがその物体の上に描かれているように見えるからです。この時に、カラーマッピングが役に立ちます。マッピングされた色が黄色のライン部分に配色され、黄色のラインはソフトウェアによって取り除かれ正しい色に置き換えられます。そうすることで、ラインを遮る物体の下にラインが引かれているように見えます。

このようにして”魔法の黄色いライン”は試合の進行とともに移動するのです。

そして、更に魔法のかけたかのように、これらすべてが処理・実行されて画面に表示されるまでの時差は、わずか1秒なのです。

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テクノロジーの歴史におけるVAIとL-VISの存在

1998年9月27日、ESPNの番組「サンデーナイト・フットボール」(Sunday Night Football)がファーストダウン・イエローラインを使って放送されました。
1990年代前半、デビッド・サーノフ・リサーチ・センター(David Sarnoff Research Center、現在はSRIインターナショナルの一部門)に、ブラウン・ウィリアムズ(Brown Williams)というシニア・マネージャーがいました。彼は、米国の様々な防衛関係機関のためにパターン認識と追跡技術について研究するチームに所属してきた人物でした。そのメソッドを商業化するというアイデアが浮上し、サーノフがプロトタイプを作るという契約が締結されました。プロトタイプは、1994年の初めに完成しました。このプロトタイプの制作を通じて開発された革新的技術が、パターン認識アルゴリズムの誕生に寄与し、テレビの生放送に対する既存のニーズと視聴者の期待を満たすことにつながりました。

拡張現実を巧みに利用することで、マーケティング担当者はフィールドの内外を問わず大きなメリットを得ています。L-VIS技術は今では広く使われており、広告という形でプレー中に表示されることもあります。その一例が、FOXが放送した第33回スーパーボウルの最中に映し出されたバーチャルのテレビ画面です。テレビでの観戦者たちは見えていましたが、スタジアムの観客には見えていませんでした。

現在は、拡張現実(AR)は多くの日常的なマーケティング手法の1つとなっています。イケア(IKEA)のようなグローバル企業では、ARを使って顧客が製品を部屋に置いてみて、製品が部屋に合うかどうかを購入前にチェックすることができるようにしています。英投資銀行Digi-Capital社は、ARは2022年までに約35億人が利用するほどに普及する可能性があり、生み出す収益は900億米ドルに達すると予測しています。

拡張現実による世界はここに、現実として存在するのです。

SRIが発信する様々な情報は、こちらでご覧いただけます。

出典
*Mashable「黄色のファーストダウン・ライン:ゲームチェンジャーが語る誕生秘話」
https://mashable.com/2013/09/25/yellow-first-down-line/
1996年のニュース記事「ABC/ESPN、今春、ビデオ挿入技術導入へ」
https://www.sportsbusinessdaily.com/Daily/Issues/1996/02/23/Sports-Media/ABCESPN-TO-UTILIZE-VIDEO-INSERTION-TECHNOLOGY-THIS-SPRING.aspx
Vox video「ファーストダウンの黄色いラインが動く仕組み」
https://www.youtube.com/watch?v=1Oqm6eO6deU
Digi-Captial:
https://www.digi-capital.com/news/2018/01/ubiquitous-90-billion-ar-to-dominate-focused-15-billion-vr-by-2022/#.Wo_-cRPFI0o
イケア(IKEA)の拡張現実アプリ
http://www.ikea.com/gb/en/customer-service/ikea-apps/
特許「アプリケーションのダウンストリームおよび電子掲示板の制御のためのシステムと方法(System and method for downstream application and control electronic billboard system)」(発明者:R.J.ロッサー(Rosser, R.J.)、B.F.ウィリアムズ(Williams, B.F.))

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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