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SRIの75年間のイノベーションについて:液晶ディスプレイ 〜スマートテクノロジーの革新を支えてきた、現在のフラットパネルディスプレイの要素技術〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

「液晶ディスプレイ」に脚光が当たる

「この技術開発によって、絵画のようにリビングの壁にかけられる薄型のテレビ画面が実現するかもしれません」 ―1968年5月に行われたRCAの液晶ディスプレイ発表時の言葉を引用したニューヨーク・タイムズの記事より

歴史学者が「現代」の時代を振り返るとき、各時代の特徴を定義するものをいくつか挙げるでしょう。その定義にはインターネットと並ぶものとして、「スクリーン」のユビキタス特性があり、今や家庭や職場、旅行などどこに行っても周りを見渡せば至る所にディスプレイ画面があります。手首につけるスマートウォッチから、この記事を読んでいるスマートフォンやノートパソコン、そしてテレビの画面まで、これらの「画面」の要素技術である「液晶ディスプレイ(LCD: Liquid Crystal Display)」は、現代の世界を輝かせるのに欠かせない存在です。

「液晶」は、1888年に植物学者のフリードリッヒ・ライニッツァー(Freidrich Reinitzer)によって発見されました。しかし、「光るディスプレイ」という技術革新としての液晶ディスプレイは、1960年代に電力消費の大きい発光ダイオード(LED: Light Emitting Diodes)に対する独創的で強力なソリューションとして世に登場しました。

液晶ディスプレイの特徴は、低消費電力、コントラストが良い高画質、長寿命ということです。薄膜トランジスタ(TFT: Thin-Film-Transistor)など他の技術とともに、液晶ディスプレイは革新的な新技術の開発を支える重要な要素となっています。

液晶ディスプレイの要素技術

1960年代初頭に電気工学専攻の博士課程に在籍していたジョージ・H・ハイルマイヤー(George H. Heilmeier)は、RCA Laboratories(現在はSRIインターナショナルの一部)に勤めており、結晶や薄膜の形で存在する炭素ベースの分子である有機半導体に興味を持っていました。その後、この分野から液晶の電気光学効果の分野へと進み、1964年にはいくつかの新しいタイプの「効果」を発見しています。この研究によって、ハイルマイヤーは「実用的な液晶ディスプレイ」の世界初のデモンストレーションを行いました。その後は米国国防高等研究計画局(DARPA)の局長に就任して「Heilmeier Catechism(ハイルマイヤーの質問)」を作成しています。

さて、ここまでは液晶ディスプレイの歴史ですが、液晶ディスプレイはどのような仕組みなのでしょうか?

液晶ディスプレイの「効果」は、次の2つの特性によって決定されます。

● 純度
● 電流の流れにくさ(抵抗率)

ハイルマイヤーはまた、液晶ディスプレイの2つの作動モードのメカニズムを明らかにしました。液晶セルの中に異なる色素を入れて電流を流すと色素の色が変わること、そして電流の大きさを変えると色を制御できることを発見し、これを「ゲストホスト効果(Guest-Host (GH) effect)」と名付けています。

その後も実験は続けられました。液晶セルに光を当ててから電流を流すと、セルが乳白色に光ることがわかりました。そして電流の大きさをさらに大きくすると、不透明度が増していきます。これは、電流によって液晶分子の配向が変化し、光がさまざまな角度に散乱するためではないかと考えられました。ハイルマイヤーは、光が順方向に散乱することに着目し、この現象を利用してディスプレイの輝度を向上させたのです。ハイルマイヤーは、セル側面に散乱光の方向に向けて反射材を置き、光子をセル内に跳ね返してディスプレイを明るくさせました。

このようにして、液晶ディスプレイの構成要素が決定されたのです。

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技術の歴史における「液晶ディスプレイ」の位置づけ

1968年5月、RCAは米国・ニューヨーク市マンハッタンの本社で記者会見を開催し、世界初の液晶デジタル時計の画像を配布しました。

時計や電卓などの消費者向け機器に使われていた消費電力の大きい発光ダイオード(LED)や蛍光表示管(VFD: Vacuum Fluorescent Displays)に代わる技術として、液晶ディスプレイが必要とされていたのです。電池で動く機器の電池寿命を延ばすことは、消費者用電子機器の開発において鍵となる重要なステップでした。

やがて、液晶ディスプレイは現在のテレビなど大画面にも対応できるように進化していきます。

確かに、液晶ディスプレイはディスプレイの世界を変えました。しかし、それだけではなく、他の技術の新たな市場進出の後押しをしました。

2023年には1,950億米ドルの市場規模が予想されるTFT液晶(TFT-LCD:薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)など、液晶ディスプレイはさらに新しい革新的なディスプレイを生み出しています。液晶ディスプレイ技術が発展して商業的に実用化されたことにより、スマートフォンやノートパソコン、タッチスクリーンのパソコン、そして多くのIoTデバイスなどの高度に接続された現代の機器にとって欠かせない、低消費電力かつポータブルなスクリーンの開発が促進されました。

ジョージ・H・ハイルマイヤーは2014年に亡くなりましたが、現在の「ディスプレイの時代」は、彼が液晶を使って光を巧みに操ったことの賜物です。ハイルマイヤーは2009年に全米発明家殿堂入りを果たしました。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
Market Watch, Size of TFT-LCD Market to 2023: https://www.marketwatch.com/press-release/tft-lcd-market-size-to-reach-195-billion-by-2023-research-cosmos-2019-04-18

National Inventors Hall of Fame: https://www.invent.org/inductees/george-heilmeier

研究論文:
Williams R, Heilmeier GH. 1966. Possible ferroelectric effects in liquid crystals and related liquids. Journal of Chemical Physics 44:638–643.

Heilmeier GH, Zanoni LA, Barton LA. 1968. Dynamic scattering: A new electrooptic effect in certain classes of nematic liquid crystals. Proceedings of the IEEE 56(7):1162–1171.

George H. Heilmeier, “Liquid Crystal Displays: An Experiment in Interdisciplinary Research that 61 Worked,” IEEE Trans. on Electron Devices ED-23, no. 7 (Jul. 1976): 780–785.

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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