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新たなウイルスに打ち勝つ方法とは

世界に存在するウイルスは多種多様ですが、ゲノム上のわずかな類似点を見つけることで、治療法を開発して将来の爆発的な発生に備える事ができます

今年は新型コロナウイルス(COVID-19)が世界で猛威を振い、科学者らは診断テストやワクチン、有効な治療法の開発に全力を注いでいます。残念ながら、人類はこの新型コロナウイルスの特定、予防や治療を経験したことがないので、この闘いではウイルスからの先制攻撃を食らったと言えるでしょう。ウイルスとの闘いをマラソンに例えるならば、レース序盤からウイルスが大きくリードしている様なものです。

どのウイルスも、自然が人類に与える脅威です。ヒトを含む宿主の動物と共に絶え間なく進化して、常に新しいウイルスが誕生しています。同じウイルスは2つとして存在せず、遺伝子レベルでの複製・伝播の仕方も非常に多様です。
このことが、複数のウイルスに有効な薬やワクチンの開発を非常に困難にしています。一般に、ワクチンは特定のウイルスに対する特異性が高く、その他のウイルス株に対する有効性にはばらつきがあります。ウイルスが宿主の細胞に侵入して複製する際に用いる特定の酵素や受容体を標的とする承認薬は有効性が非常に高いものの、重症急性呼吸器症候群を引き起こすSARS-CoV-2を含むコロナウイルス株に対してはほとんど(あるいは全く)効果が期待できないでしょう。SARS-CoV-2 によって、世界中で何十万人もの人が死亡しています。
幸いにも過去50年の研究によって、多くのウイルスには共通する(あるいは類似する)構造を持ついくつかの仕組みがあることが分かってきました。その共通要素とは、ウイルスの複製や、生存そのものに不可欠な酵素またはタンパク質で、ウイルスの遺伝情報に含まれています。ある種のウイルスに対して、これらの酵素またはタンパク質を標的として阻止する治療法が開発されれば、同じ遺伝的機構を有する新たなウイルスが登場した際に先手を打つことができるかもしれません。
過去に同様の取り組みが実を結んだことがありました。複数のウイルス性感染症(HIV、インフルエンザ、B型肝炎および単純ヘルペスウイルスなど)の治療に使われる抗ウイルス薬は現在、大きく分けてポリメラーゼ阻害剤とヌクレアーゼ阻害剤に二分されます。ウイルスのポリメラーゼはDNAまたはRNAの配列を結合する酵素で、ウイルスの複製そのものを助けます。それに対し、ウイルスのヌクレアーゼはハサミとして働く酵素で、DNAまたはRNAを切断して複製を可能にしたり、場合によっては宿主の免疫システムから身を隠したりします。こうしたウイルスの酵素を標的とする薬がすべて、新興ウイルスに効くわけではありません。しかし、解決の糸口にはなります。レムデシベルはエボラ出血熱患者での使用を目的としたヌクレオチドアナログ治験薬で、新型コロナウイルス患者の回復を助けることが示されています。エボラウイルスとSARSウイルスは遺伝的に大きく異なるものの、類似する機能と結合部位を持つ酵素を含む可能性があるからです。

SARS-CoVが流行した2002~2003年以来、科学者らはSARS-CoVウイルスの広範囲な研究を進めてきました。2019年に特定された新型ウイルス(SARS-CoV-2)との配列比較では、SARS-CoVと密接に関連していることが分かりました。実際に、SARS-CoVには非構造タンパク質15 (nsp15)として知られる特定の遺伝子配列があり、その配列はSARS-CoV-2の遺伝子配列と95.7%の類似性があることが分かっています。
nsp15の配列および構造を検証したところ、nsp15 は病気の発症に欠かせないエンドヌクレアーゼ酵素で、複数のコロナウイルスにおいて構造的類似性があることが分かりました。さらに、このエンドヌクレアーゼは、高い確率で宿主の免疫システムからコロナウイルス自身を守るという共通の機能を果たしています。つまり、nsp15阻害薬はSARS-CoVやSARS-CoV-2だけではなく、あらゆる新種のコロナウイルスに対して有効である可能性があるのです。

この特定のエンドヌクレアーゼを標的とするFDA承認薬は今のところありませんが、他のウイルスのヌクレアーゼを阻害する抗ウイルス薬の開発については成功事例があります。バロキサビルマルボキシルは最近FDAに承認された初のエンドヌクレアーゼ阻害剤で、インフルエンザAウイルスの治療に用いられます。その他、HIVヌクレアーゼ酵素(HIVインテグラーゼ)を標的とする2つのFDA承認薬(ラルテグラビルおよびエルビテグラビル)があります。これら2つのウイルスの遺伝子配列の類似性は少ないかもしれません。しかし、すべてのヌクレアーゼ酵素は関連した機能および結合部位を有しますので、新たな抗ウイルスヌクレアーゼ阻害剤開発を有利に進める事ができるでしょう。

SRIは、エンドヌクレアーゼ阻害剤の発見に焦点を当てた研究プログラムを継続中です。 特に、パンデミックを引き起こす可能性のあるインフルエンザ株および薬剤耐性を持つインフルエンザ株に有効な化合物の創製に力を入れています。この研究によりインフルエンザウイルスのエンドヌクレアーゼ酵素を阻害する新たな化学構造が発見されました。現在はこれらの新薬候補の複数のウイルスに対する治療可能性を評価しています。
最近、当社はフランスのIktos社と提携し、当社の全自動合成化学システム(SynFini)とIktos社の人工知能技術を組み合わせることにより、新規エンドヌクレアーゼ阻害剤の発見と最適化の加速を目指すことを発表しました。最先端の自動化システムとAIシステムの融合により、新規抗ウイルス薬の、特にインフルエンザおよびSARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬の開発につながると期待しています。
最あらゆる種類のウイルスに共通するヌクレアーゼ酵素が存在するという事実から、最終的にはこれらの阻害剤は将来の感染症の発生に打ち勝つための確かな備えになると信じています。

筆者:Peter B. Madrid, Ph.D./ SRI International (VP of SRI Biosciences)

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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