見出し画像

SRIの75年間のイノベーションについて:高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)の商業化

顕微鏡は、多くの人が小学校で初めて出会うものです。短い鏡筒を覗くと、そこには不思議な物があり、時にはそれは動いています。池の水を一滴、顕微鏡で覗くと、そこは生命であふれています。顕微鏡は、1590年にHans JanssenとZacharias Janssenによって発明されて以来、科学機器として欠かせないものとなっています。

顕微鏡は長い年月をかけて進化してきました。近年流通している、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)に代表される高性能顕微鏡は、学校の教室で使われていた機器とは大きく異なっています。高い分解能を備える透過型電子顕微鏡は、1940年にRCA Laboratories(後にSarnoff Corporationと改称、現在はSRIインターナショナルの一部)が開発したものであり、現在では材料科学、医学、生物学研究、科学捜査、地質学など様々な分野で使用されています。

では、この重要な技術の開発にレンズを向けてみましょう。

レンズを覗いて「見えないもの」の世界へ

極小の世界を調べることは、何世紀にもわたって科学者の課題となっていました。私たちが学校で使っている光学顕微鏡はレンズを使って非常に小さなものに光を当てていますが、最終的には限界に達してしまいます。光学顕微鏡の最適分解能は0.2ミクロンで、倍率は約1000〜2000倍になります。顕微鏡分野での開発は進み、光の代わりに荷電粒子を用いて微細な試料の細部を分解(判別)する方法が発見されました。

倍率は光の波長によって決まります。つまり、観察しているものが小さく、光の波長がそれよりも大きい場合、観察対象を分解することはできません。そこで、透過型電子顕微鏡では、光の代わりに電子が用いられます。電子の電磁波の波長は光よりも非常に短いため、より小さなものを観察することができるのです。透過型電子顕微鏡(TEM)の分解能は50倍から5,000万倍になります。

画像1

多数のCoxiella burnetii菌の超微細構造を示したTEMの画像   出典: US- Public Health Image Library, Centers for Disease Control and Prevention

TEM分析に使用する試料の作製は、光学顕微鏡の場合よりも複雑です。電子ビームが効果的に作用するよう、ウルトラミクロトームなどの装置を使って試料を薄くスライスしなければなりません。対象物が生物学的なものであれば、保存して脱水しなければなりません。その後、試料をマウントしたり、染色したりして準備します。

TEMは4つの部分から構成されます。

1. 顕微鏡の上部に取り付けられた電子銃(光源)
2. 電子が通る真空管
3. 電子を発生させ、電子ビームを制御する電子部品。電子は電磁レンズを用いて試料に照射される
4. 試料の画像を2次元で表示するためのコンピュータソフトウェアと画像処理装置(断層撮影技術を用いた3次元画像の生成も可能)

TEMは、高分解能の白黒画像を出力します。ビームの電子速度は波長と相関しています。電子の速度が速いほど、波長は短くなり、波長が短いほどより詳細な画像が得られるのです。

試料を通過した電子は、検出器に取り込まれます。これらの「散乱していない」電子は、「影像」を形成します。この結果として得られる画像には、明るい部分と暗い部分があります。明るい部分は電子が試料を通過した部分で、暗い部分は電子の通過を妨げた密度の高い部分です。この濃淡の違いを利用して、物質の特徴を判断します。

透過型電子顕微鏡は発展途上の分野であり、(球面収差補正などの)進歩により、分解した画像を微調整したり、ぼかしを除去したりすることができます。

画像2

歴史における透過型電子顕微鏡の位置づけ

電子顕微鏡は1930年代の製品です。電子顕微鏡の歴史は時間ではなく、分解能にあります。小さな世界をより詳細に見ることができるようになることがその目的でした。しかし、光学顕微鏡の分解能は光の波長によって限界がありました。これを解決するために、電子の非常に短い波長に目を付けたのです。顕微鏡世界での「焦点」とは、原子レベルの分解能の探求であり、原子の分解に原子の粒子、つまり電子を使うのは多くの意味で当然の選択でした。しかし、そこに至るまでには、何十年にもわたる実験が必要だったのです。

最初の電子顕微鏡は、1931年にErnst RuskaとMax Knollという2人のドイツ人科学者によって作られました。この第一号機は分解能が低く、標本の画像もぼやけていたため、商業化には至りませんでした。しかし、コンセプトとしては画期的なものだったのです。1930年代を通して、分解能の限界を伸ばすための研究が続けられました。RCA Laboratories(後にSRIに統合)は1940年に北米初の高分解能透過型電子顕微鏡を商品化しました。このTEMは「モデルB」として知られるようになり、実用に耐える電子顕微鏡の普及に貢献したのです。

「モデルB」は、高さ10フィート(約3メートル)、重さ0.5トンの巨大なものでした。1940年4月14日にフィラデルフィアでデモンストレーションが行われ、1949年にはRCAの透過型電子顕微鏡が早くもがん細胞の観察に成功しました。

画像3

RCAの電子顕微鏡は、1960年代の生産終了までに約2,000台が販売されました。そして透過型電子顕微鏡は、現在も病院や研究機関など様々な場所で使用されています。

顕微鏡の小さな視野の中には、新しい世界が広がっています。電子透過型顕微鏡の開発がなければ、私たちが原子レベルの画像を見ることはなかったでしょう。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
表紙画像の出典:シーメンス製造のTEM(左)Creative Commons、daryl_mitchell

Obituary of Dr. James Hiller, New York Times: https://www.nytimes.com/2007/01/22/science/22hillier.html

RCA demonstrates electron microscope, April 14, 1940: https://www.edn.com/rca-demonstrates-electron-microscope-april-14-1940/

E J. Big., A Short History of the Electron Microscope, Bios, vol. 27, no. 1, 1956, pp. 33–37: JSTOR, www.jstor.org/stable/4605737

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!