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SRIの75年間のイノベーションについて:アバカスドライブ 〜1960年代のハーモニックドライブ登場以降、初となる唯一の固定速比回転伝達機構(減速機)〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

連なって回転する「ビーズ」がどのようにアイデアをひらめかせ、より高効率、高剛性の減速機につながったのか

人工の物体を見たときに、その機能を超越した「真の美しさ」に気づくことがあります。「アバカスドライブ(Abacus Drive)」はまさにこれに当てはまります。2016年のIEEEスペクトラムで展示されたアバカスドライブのプロトタイプを目にすると、まるでレオナルド・ダ・ビンチが発明したものを見ているような気分になります。

動物や植物、進化する物すべて、そしてアバカスドライブはエンジニアリング界のスペシエーション事象(種形成事象)なのです。これは、1960年代にハーモニック・ドライブ・システムズ(Harmonic Drive Systems)が当時斬新であった波動歯車装置を導入して以来、初となる新しい設計の SRIの75年間のイノベーションについて:アバカスドライブ 〜1960年代のハーモニックドライブ登場以降、初となる唯一の固定速比回転伝達機構(減速機)(fixed-ratio rotary transmission)でした。このエンジニアリング界の驚くべき発明は、ロボット工学における効率性と正確性を新たなレベルに引き上げることになったのです。

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「ギア」の歯はかみ合うが、「アバカス」は滑らかに回転する

機械式パワートレインは通常、スピードとトルクを伝えるためにギアを使用してモーターの力を出力しています。従来の歯車列(ギアトレイン)がこの目的に適している応用例としては、「自動車のギアボックス」などいくつもの例をあげられます。しかし、特にロボット工学では「高ギア比かつ位置精度が高く、よりコンパクトな駆動装置」が必要とされています。この業界で使用される駆動装置は、このニーズを満たす一方で効率性ねじり剛性が犠牲になっています。

SRIの技術者は、「美しく、“遊び”がなく、高ギア比かつ高トルク、低コストの減速装置」を開発して、「アバカスドライブ」と名付けました。

2016年にサンノゼコンベンションセンターで開催された第12回ロボビジネス年次会議・展示会にて、SRIの技術者はアバカスドライブとその機能を披露しました。ドライブの内部には「ビーズ(玉)」が連なって配置されており、この形が「アバカス(そろばん珠)」という名前の由来になりました。ビーズは回転してスペーサーの役割を果たし、一対の溝の間を動きます。その結果、円形トランスミッションと同様の作用が得られますが、これは転動のみを利用しています。ハーモニックギアはギアの歯を利用していますが、アバカスドライブはその代わりにビーズを使っているのです。ギアの歯とは異なり、互いにかみ合う、もしくはこすれ合うパーツはなく、ビーズがスムーズな回転を生み出します。

アバカスは“遊び”がないことから、”グラスの牛乳”をこぼすことがない

アバカスドライブは、ロボット工学の分野での使用を念頭に設計されました。例えば、牛乳の入ったグラスを持ち上げられるように、精密な動きが必要とされるロボットアームを想像してみてください。これは繊細な動きであることから、空中でロボットアームがどこに位置するのか少しでも計算にずれがあると、牛乳をこぼしてしまうかもしれません。従来型のギアが動くときには、「バックラッシ」と呼ばれるプロセスが発生します。バックラッシとは潤滑油が入るギアの歯と歯の間の隙間を指します。ギアトレインが逆側に入ると、この隙間があるため歯が即座にかみ合わず、出力シャフトの角度に対する位置エラーが発生します。位置決めという意味では、この牛乳が入ったコップを持ち上げるロボットの場合、この“遊び”はロボットアームの位置決めに悪影響を及ぼすことから、ロボットが牛乳をこぼすことにつながります。

アバカスドライブの内部では、スムーズに回転するビーズが入力側の力を出力側に伝達しているのですが、ギアよりも非常にスムーズに伝達でき、さらに重要な点として「バックラッシ」による悪影響もありません。アバカスドライブは新種の回転駆動とも言えるもので、高い剛性でより減速することが可能であり、バックラッシなし、高トルクの減速機(トランスミッション)なのです。

ハーモニーはSRIにも存在しています

アバカスドライブには互いにかみ合う、もしくはこすれ合うパーツがないため、エネルギーのロスが大幅に減少します。最終的に、アバカスドライブは93%以上のエネルギー効率を実現しています。アバカスドライブのプロトタイプ1号機は3Dプリンターで作成しています。これ以降、SRIは株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズとパートナーシップを締結し、SRIの技術をライセンス供与してアバカスドライブの商業化に協力して取り組んでいます。アバカスドライブのパワーの源となっている「ビーズとその動き」は、安全かつ精巧なロボットを製作するのに不可欠である精密な動作に必須とされる「スムーズな作用」をロボット工学の世界に提供します。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
YouTube, Harmonic Drive, “Harmonic Drive Strain wave gear principle“: https://youtu.be/bzRh672peNk


YouTube, SRI Demonstrates First New Rotary Transmission Design in 50 Years: https://youtu.be/zoaHeamUqBE

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社



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