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SRIの75年間のイノベーションについて:アイトラッカー 〜SRIはいかに「アイトラッキング」の力に世界の目を向けさせたのか〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

誰かの「目」をのぞき込めば、全く動かないものはないことに気づくでしょう。まぶたは瞬き、瞳は明るさに応じて大きくなったり小さくなったり、眼球は視線の先にあるものを捕らえてそれを見ようとして動いています。目は常に動いているのです。これらの動きは意識的なものもあれば無意識のものもあり、医療や生体認証、さらにはウェブデザインにも利用されるデータを提供しています。1960年代にその端を発し、その後20年以上ものあいだ、SRIと米国航空宇宙局(NASA)は共同で「目の動き(眼球運動)」を追跡する方法を開発し、さまざまな分野で数多くの実用化に至りました。SRIがいかに私たちの目をじっくりと観察し、「アイトラッカー(Eyetracker)」を作り上げたのかをご紹介いたします。

SRIの研究者が人の「目」を見るときには、何を見ているのでしょうか

人間の目は複雑な器官です。あまりにも複雑なため、進化論を反証しようとするときに頻繁に取り上げられることさえあります。すなわち「結局のところ、このような複雑なものには設計者がいるはずである」という論議があるのです。進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、著書「盲目の時計職人(The Blind Watchmaker)」でこの論議を否定し、人間の目の複雑な特徴が進化したプロセスのなかで、自然の淘汰がどのような役割を果たしたかについて述べています。そして、実際のところ目はとても複雑なものです。「目」は多くの部分から成り立っており、互いにつながって脳に映像を伝達し人間の視覚を形成しています。そして人間の目において、ひとつ明らかなことがあります。それは常に動いているということです。眼球運動は3つの種類に分けられます。

1. 高頻度かつ不規則な動き:1秒あたり30回から70回の動きで、約20秒角(1秒角は3600分の1度)という非常に小さな動きです。

2. 衝動性眼球運動(サッケード)とよばれる、ちらつく動き:これは、前述よりも大きな動きですが、非常に小さいことに変わりありません。その大きさは数分角(1分角は60分の1度)で、約1秒の間隔で規則的に起こります。

3. 不規則な横方向の動きと固視微動: サッケードと同様、不規則かつゆっくりした動きです。矯正メカニズムを伴い、固視微動の元を形成します。

1965年、NASAとSRIはこれら「目の動き」の正確な測定法を開発しました。この研究はもともと、高高度で高速飛行を行うパイロットの目のかすみを軽減し、空の安全を高めることを目的としていました。SRIインターナショナルの他の多くのプロジェクト同様、この研究は本来の目的を派生させて、人々の役に立つ数多くの実用化に結び付けました。現在「眼球運動」のトラッキングは、医療からウェブデザインに至るまで、さまざまな分野で貴重な要素となっています。

目の動きをトラッキングし、商業的成功をおさめる

SRIインターナショナルは、20年以上にわたって目の動きのトラッキングに関する研究に取り組み、その結果、「アイトラッカー」という商用システムを開発しました。1965年から1988年にわたる開発期間では、第5世代のアイトラッカーが誕生しました。そして、最終的に実用化されたアイトラッカーは、単眼と複眼を組み合わせたシステムとなりました。アイトラッキング技術が成熟するにつれ、その商業的応用の可能性はますます大きくなったのです。

1988年、アイトラッカーはフォーワード・オプティカル・テクノロジーズ(Fourward Optical Technologies)にライセンス供与されたのちもシステム開発は継続され、そして市場に投入されました。フォーワード・オプティカル・テクノロジーズはデュアル・プルキンエ・イメージ(DPI :dual-Purkinje-image)アイトラッカーと呼ばれる研究用の装置を開発しました。「プルキンエ像」とは目の組織内で形成される反射像のことです。DPIアイトラッカーは4つあるプルキンエ像のうち2つを使用して、視線の方向を大型の視野に二次元で正確にとらえます。DPIアイトラッカーの大きな特徴とは、被験者には見えない赤外線を使用することで、通常の視界を妨げないということでした。

目の動きを「課題」に応用する

アイトラッカーは様々な分野で利用されています。

医療: 眼内出血の検知、不随意の眼球運動のトラッキングによる脳疾患や脳震とうの診断、非侵襲的手段による循環器系の検診など医療分野で数多くの応用例があります。

ウェブデザイン: ユーザーがウェブサイトを見るときの目の動きをトラッキングすることで、ウェブデザイナーは効果のあるウェブエレメントを得ることができます。アイトラッカーは被験者のわずかな視線の動きを検知することができ、ユーザーがウェブサイトの重要な箇所を見ていない原因を示唆することが可能です。

生体認証: SRIインターナショナルのスピンオフ企業であるプリストン・アイデンティティ(Princeton Identity)は生体認証ソリューションを開発しており、空港や軍事施設など厳重な警備を敷く施設で「虹彩認証」が採用されています。アイトラッキングが虹彩認証を増補することで、より正確かつ厳重な警備ができるようになりました。

SRIのアイトラッカー技術は、現在様々な研究分野や医薬分野で活用されるまでに至っており、最近の生体認証技術にも応用されています。「目は心の鏡」ということわざは、科学的というよりも抽象的ですが、SRIインターナショナルは科学的手法であるアイトラッキングを通じて、数多くの有益な情報が得られるということを証明したのです。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
Samadani U, Ritlop R, Reyes M, et al. Eye tracking detects disconjugate eye movements associated with structural traumatic brain injury and concussion. J Neurotrauma. 2015;32(8):548–556. doi:10.1089/neu.2014.3687

(SRI 日本語ブログ)虹彩認識技術 〜 従来の制約を解消することで、実生活のシーンでの虹彩認証が利用可能に〜: https://dish-japan.sri.com/n/n25503221046d

NASA Technology Transfer Program: https://spinoff.nasa.gov/spinoff1999/hm2.htm

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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