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Invent, Apply, Transitionー発明、応用、実用化:ひらめきに命を吹き込む

この3本の柱からなるビジネスモデルを巧みに使いこなすことが、非営利法人であるSRIが世界を変える技術的進歩をもたらす土台となっています。

SRIインターナショナルは、設立以来75年にわたり膨大な数の発明に携わってきました。コンピューターサイエンスからヘルスケアに至るまで、あらゆる分野で人々の暮らしを変えるような発展の道を切り拓いてきました。一貫性と再現性のある質の高いアイデアとイノベーションを巧みに実行して人々の元に届けるには、研究のプロセスに特に注意を払う必要があります。そのアプローチの礎となっているのがSRI独自のビジネスモデル「発明、応用、実用化(Invent, Apply, Transition)」です。

このモデルは「パスツールの4象限(Pasteur’s quadrant)」として知られる概念から生まれ、発展したものです。科学と技術を、純粋な基礎研究から実生活で使えるものへと移行させるプロセスが詰め込まれています。

パスツールの4象限(Pasteur’s quadrant)

わたしたち現代人は、科学を実社会に適用することで、機械、技術、材料などの利便性を享受しています。ドナルド・E・ストークス(Donald E. Stokes)は1997年に発表した著書「パスツールの4象限」(Pasteur’s Quadrant)において、「現実的な用途を考慮しない純粋な科学的研究」、「実用化」、「科学分野向けの資金調達」の永遠の論争について著述しています。ストークスは、科学的研究を行うアプローチを4つの象限に分類することで、それらのアプローチの違いによって異なる結果が生じることを示しました。ストークスは、研究者ごとに大きく異なる研究スタイルを定量的に扱えるようにするために、ボーア(Niels Henrik David Bohr)を「純粋基礎研究:pure basic research」に、エジソン(Thomas Alva Edison)を「純粋応用研究:pure applied research」に分類しました。多くの組織で一般的に行われているのはエジソン型の研究です。

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出典:Donald E. Stokes著「パスツールの4象限」(Pasteur’s Quadrant)

著書のタイトルにも名前が使われている「パスツール(Louis Pasteur)」は、4つの中で「現実的な利用への関連性が高い基礎研究」に分類され、SRIはこのパスツール型に属します。パスツール氏は、純粋な科学的研究によって実社会で役立つものを生み出し、そこから得たデータを現実的な利用への関連性が低い研究へとフィードバックしました。そして、革新的な科学研究に秀でた応用科学者でした。一方でパスツール氏は、そうした研究から画期的な実用品を生み出す能力も備えていました。

ストークスは、「発見」「発明」が同時並行的に研究のモチベーションとなることを表わす象限にパスツールを分類しています。つまりパスツール型研究では、発見と発明を繰り返すことで双方の進展が促されます。ストークスは、「根本理解を追求するための研究」と「応用のための研究」は互いに対立するのではなく連携し合うべきであり、両者の架け橋を見つけるべきであるということを「パスツールの4象限」を使って実証したのです。

「純粋基礎研究」は構造がシンプルで、効果的に一連に進められていきます。一連とは、発明して、それを応用して、それから実用化するという順番です。多くの場合、生み出された発明を応用して利用できるようにするには少なからず時間がかかり、成功するとしても数十年後になるかもしれません。

「純粋応用研究」ではほとんどの場合、まず実用化が計画され、次にその時点で既に利用可能な基礎研究の内容を、問題の解決方法を見つけるために使用します。応用研究の実施期間は12~24カ月という場合が多く、新たな基礎研究を展開する時間的余裕はほとんどありません。

「現実的な利用への関連性が高い基礎研究」では、発明と応用の間で継続的な相互作用が起こります。その結果、基礎となる「根本的な発明に基づく新たな研究」が生まれますが、これは基礎研究よりも明確なため、多くの場合で基礎研究より短いスケジュールで実用化へと進みます。

「発明、応用、実用化」モデルの実例:米国防高等研究計画局(DARPA)のWarrior WebとSeismic

2010年代半ば、米軍ではexoskeletons(エクソスケルトン: 外骨格型パワードスーツ)の使用に対する評価が積極的に行われていましたが、大きな課題がありました。その課題とは、エクソスケルトンは兵士に特別な能力を与える一方で、使用時間が非常に短い場合でも兵士に極度の疲労をもたらすということでした。

DARPA(米国防高等研究計画局)は、実際に活用する場面を想定して次のような質問をしました。「実生活で8時間の着用に耐えられるものであり、尚且つ兵士が8時間の着用中に受ける代謝負荷を全体的に軽減することのできるエクソスケルトンを作ることは可能なのか?」

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そこでSRIは、「現実的な利用への関連性が高い基礎研究」方法に沿ったアプローチを行いました。そして、既存のエクソスケルトンに使われているソリューションを評価することで、どのような「発明」が求められているのかについて重要な知見を導き出しました。人間の骨格構造は昆虫とは異なっており、骨格が体の内側にありその外側に筋肉がついています。既存の「エクソ・スケルトン」は外側に骨格がある形態で、目的とする機能とは根本的に相容れないものだったのです。人間の骨格構造と同様に、外側に筋肉がついている形態「エクソ・マッスル」であれば、理論的には目的に適う可能性があるということが生体力学の論文研究によって検証されています。

こうしてSRIは「エクソ・マッスル」をソリューションのコンセプトに据えました。そしてプロトタイプを作るために、「柔軟な構造の全体に負荷を伝達するにはどうすれば良いのか」、「1000分の1秒単位の正確さで力を加えることは可能なのか」などの課題に対して様々な新しい技術を発明する必要がありました。

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このDARPAのプロジェクトにおいて、SRIは初めて「プロダクト・ユーザー・フィット」(製品をユーザーに適合させること)に成功しました。8時間の使用時間で、ユーザー(この事例では、ユーザーは兵士)の代謝負荷を大幅に低減することができたのです。

さらにSRIは、この技術を商業的に実用可能なものにするのであれば、市場に出すことができる企業に技術を移転する必要があると認識していました。プロダクト化に当たっては、新たな「ユーザー」を定義し、プロダクト・ユーザー・フィットを確認しなおす必要があります。価格設定、製作、保守を行う必要も生じます。これまでの「現実的な利用への関連性が高い基礎研究」では、プロダクト化についてを「応用研究」の問題に転換していました。プロダクト化を実現するには集中と原動力が必要です。SRIはこの研究を市場に持ち込むために、外部の投資家とともにSeismicというスタートアップ企業を立ち上げました

SRIの「発明、応用、実用化」モデルとは何か

「現実的な利用への関連性が高い基礎研究」を行うには、基礎研究や純粋応用研究に適したプロセスとは全く異なる「独自のプロセス」が必要となります。

SRIは「発明、応用、実用化」というビジネスモデルを使って「独自のプロセス」を確立しました。このモデルは「パスツールの4象限」のコンセプトを基に発展させたもので、シンプルでありながら非常に有効なビジネスモデルです。このモデルの大きな特徴は、反復プロセスによって「研究による知識」と「プロダクト化」を結び付け、プロダクト化からのフィードバックを常に循環させて新しい知識創造のプロセスを向上させることです。

「発明、応用、実用化」モデルの土台を形成しているのは、流動的な連携プロセスです。SRIはこのプロセスを通じて科学的理解/能力の大いなる発展を体現し、かつ実社会に応用することが可能な新技術の創出を目指しています。

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相互に関連している「発明、応用、実用化」の各ステージについてご説明しましょう。

SRIの研究チームは、まず科学の進歩が社会の向上に大きく貢献する分野を特定します。このときに必要不可欠な要素が「アイデアの創出」であり、実際の活用場面とそのときのニーズを理解するための時間を十分に取ることが重要です。「発明ステージ」での目標は、ニーズに合っていない状況を改善する「ソリューションのコンセプトを発明する」ことです。

「応用ステージ」では、発明されたソリューションを実証し、その応用案を提示します。ここで、直面する様々な問題に対して大きな進展がもたらされます。このとき重要な要素は、その技術がユーザーの直接的なニーズを満たしていることを証明する「プロダクト・ユーザー・フィット」を確立することです。これは主にコンセプトの証明(Proof of Concept)を通じて行われます。

「実用化ステージ」において何より必要なことは、市場参入ルート「プロダクト・マーケット・フィット」(製品を市場に適合させること)の確立です。この方法論については比較的理解が進んでおり、大企業やスタートアップ企業と連携して実施されることが多くなっています。

SRIのプレジデントであるManish Kothariは、次のように述べています。「SRIはパスツールと同様、現実的な利用への関連性が高い基礎研究を行なっています。SRIでは、その活用方法を考案し、その方法を理解するために膨大な基礎研究を行います。そして発明プロセスの最初の段階で、実用化の可能性を必ず検討します。SRIには、コアとなる基礎研究とプロダクト化の間を繋いで両者を繰り返し反復する独自プロセスがあり、それ故にSRIは科学と産業の両面で特別な存在なのです」。

「発明、応用、実用化」という3本の柱からなるビジネスモデルを使用することで、SRIはプロジェクトのどの段階でも流動的に提携、研究、実装が可能であり、その結果、大きなアイデアを実現させることができるのです。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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