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SRIの75年間のイノベーションについて:太陽光発電

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

〜世界で初めて実用化されたアモルファス太陽電池や、太陽エネルギー関連の特許を生み出した第1回「太陽エネルギーの応用に関する世界シンポジウム」〜

太陽光でエネルギーを作りだす

「この会議の意義は、今後の議論や評価を経て活動や研究が活発になることで実感できるだろう」- SRIインターナショナルのGuy BenvenisteとMerritt Kastensが「サイエンス」誌に寄稿した、1956年の第1回「太陽エネルギーの応用に関する世界シンポジウム」の記事

空に輝く明るい黄色の球体「太陽」は、地球上のすべての生命の源です。太陽の光エネルギーがなければ、植物は育たず、動物が草原で走り回ることもできず、私たちが今ここでこのブログを書いていることもありません。人類の歴史において太陽は非常に重要な存在であり、その偉大なエネルギーを崇拝し、太陽の名を冠した神々を生み出したほどです。

人類がこのエネルギーを利用したいと思うのは当然のことでしょう。

1955年、SRIは第1回「太陽エネルギーの応用に関する世界シンポジウム(World Symposium on Applied Solar Energy)」を共同開催しました。このイベントには29,000人以上が参加し、500人もの科学者や技術者が太陽エネルギーの未来について議論を交わしました。

このシンポジウムは、再生可能な資源をエネルギーの源とする新しい方法を生み出すきっかけとなりました。その結果、SRIインターナショナルは12件の特許を取得し、太陽エネルギーを利用する技術ポートフォリオを構築することができました。

SRIはいかに太陽の光を捉えたのか

「太陽エネルギーの応用に関する世界シンポジウム」ではいくつかの発明が生み出されていますが、そのうちの1つがアモルファス太陽電池(the amorphous solar silicon cell)です。この特許は1976年にRCAのデビッド・サーノフ研究所(現在はSRIの一部)から出願されたもので、太陽エネルギー産業の商業化へのきっかけとなりました。この特許(カールソン米国特許第4,064,521号、1977年12月20日)では、P-I-N接合素子とショットキーバリア(半導体接合部に形成される電子の潜在的なエネルギー障壁)を生成するための「グロー放電アモルファスシリコン(glow discharge amorphous silicon)」が紹介されています。

アモルファスシリコンは、構造的に均質性が低いため吸収力が高いのですが、他にも商業的に大きな利点があります。

• シリコンの使用量が少ない:アモルファス太陽電池は、結晶系太陽電池に比べてシリコンの使用量が少ないため、ガラスなどの安価な材料で基板を作ることができる

• フレキシブルで軽量:応用できる範囲が広範囲になる

1960年代にイギリスのダンディー大学で開発されたプラズマ化学気相成長法(Plasma-enhanced chemical vapor deposition)は、RCA研究所のCarlsonとWronskiが初めてアモルファスシリコン太陽電池を開発した時の基礎となりました。アモルファスシリコン太陽電池はP-I-N接合を基礎としており、極薄のP層とN層は(塩素などのハロゲン原子で)ドーピングされています。I層は、吸収したエネルギーを電荷のキャリア(運び手)である電子と正孔に渡す部分です。そのユニークな特徴は、「ウエハー式結晶シリコン」に代わる薄膜アプローチという技術を採用していることです。この初期セルの発電効率は2%でしたが、同年中にチームはこれを5%超に高めることに成功しました。

開発を進めると、太陽電池には「ステブラー・ロンスキー効果」と呼ばれる劣化現象があることが判明しました。これは、太陽光を長期間浴びるとセルの出力が低下することを指します。1977年、RCA 研究所のStaeblerとC. R. Wronski は150℃でアニーリング(加熱処理)してこの劣化現象をくい止める方法を発表しました。

その後もシランの分解時に水素を添加するなどの改良を重ねることにより、発電効率は更に向上しました。今後、アモルファスシリコン電池の発電効率が向上したことによる、さらなる応用が期待されています。

エネルギーに光をあてる:太陽エネルギーの歴史の中でのSRIのポジション

1980年代、学生たちはソーラー電卓という形で太陽電池を手にしました。これは、アモルファスシリコンを使った最先端のものでした。RCAがアモルファスシリコン太陽電池を改良した後、しばらくの間はその用途はニッチなものにとどまっていました。しかし時が経つにつれ、より一般的な発電と電力消費への実用化につながる用途が拡大していきました。その中には、現在の私たちになじみ深い「ソーラーパネル」のような建物一体型の太陽光発電も含まれています。

1955年に開催された「太陽エネルギーの応用に関する世界シンポジウム」では、太陽エネルギーの世界の発展につながった多くの特許が生まれました。それから約70年、太陽エネルギーをはじめとする再生エネルギーは必要不可欠な技術であると同時に、地球を救う技術でもあります。気候変動が深刻化する中、私たちはエネルギーの生産と消費の方向性を変えなければなりません。太陽エネルギーの利用を促進すれば、非再生エネルギーの需要を減らすことができるのです。

SRIはこの重要な任務が前進するよう、引き続き取り組んでいきます。SRIは、太陽電池に採用できるグレードのシリコン製造方法の開発とライセンス付与、グラフェンの太陽電池への新しい応用手法、薄膜太陽電池の開発などに貢献しています。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
World Symposium on Applied Solar Energy, Science 11 May 1956: Vol. 123, Issue 3202, pp. 826–831: DOI: 10.1126/science.123.3202.826

D.E. Carlson: U.S. Patent №4,064,521 (1977)

D. E. Carlson, The Status of Amorphous Silicon Solar Cells, Book Chapter published 1981 in Photovoltaic Solar Energy Conference on pages 294 to 301: https://doi.org/10.1007/978-94-009-8423-3_42

Patent Application, Article and device having an amorphous silicon containing a halogen and method of fabrication, 1976: https://patents.justia.com/patent/4196438

D. L. Staebler and C. R. Wronski, Reversible conductivity changes in discharge‐produced amorphous Si, Applied Physics Letters 31:4, 292–294: https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.89674

Carlson, D.E., Wronski, C.R. Solar cells using discharge-produced amorphous silicon. JEM 6, 95–106 (1977). https://doi.org/10.1007/BF02660377

Carlson, D.E., Recent developments in amorphous silicon solar cells, Solar Energy Materials, 1980: https://doi.org/10.1016/0165-1633(80)90002-7

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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