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[テクノロジーの歴史] パロアルトにあるスタンフォード・ディッシュ・トレイルの知られざる物語 (”THE DISH”:名前の由来)

あの有名な電波望遠鏡は今日も現役         ―昔と今にまつわる裏話ー

ハイキングが好きな人もそうでない人も、スタンフォード大学から程近い小さな丘「Stanford foothills」を散策するならば「スタンフォードディッシュ(Stanford Dish)」は見逃せません。サンフランシスコ半島南部で最もよく知られた名所のひとつであるディッシュは、サンフランシスコ市街からハイウェイ280号線を南に向かい、アルパインロードを下ると、左手に大きく見えてきます。小高い丘の上に、まるでアメリカのエッフェル塔かのように、シリコンバレー中心部に建っています。
パロアルトにあるディッシュの姿は非常によく知られていますが、ウィキペディアに掲載されている断片的な情報以上の、歴史や目的に関する話は全く広く知られていません。訪れる人々のほとんどがそうであるように、私も長年そのディッシュを「スタンフォード・ディッシュ・トレイル」つまり、スタンフォード大学の近くにある公園で、熱心なアウトドア派やベビーカーを押す家族連れ、また軽くハイキングを楽しみたい人が訪れる場所だと思っていました。数カ月前からSRIインターナショナルで働くようになって初めて、スタンフォード大学の通称「ディッシュ」は大学とほぼ何の関係もないということがわかり、嬉しい驚きを覚えました。事実、いくつかの小さなプロジェクトでSRI(当時の名称は「スタンフォード研究所(Stanford Research Institute)」)と大学が共同でデッシュを利用したり、1950年代後半に両者の合意の下でディッシュが大学所有地に設置されたりしましたが、こうしたことを除けば、ディッシュは基本的にSRIが運用し、その起源もスタンフォード大学とは密接な関係があるわけではないのです。
このスタンフォードの電波望遠鏡は、1961年米国政府の依頼で他ならぬSRIにより設置されました。設置提案から設計、設置、運用、そして継続的な管理にいたるまで、その全てをSRIが行ってきました。直径150フィート(約46メートル)の巨大アンテナはSRIの技術者 ニール・スタッフォード(Neil Stafford)とデビッド・レイ(David Wray)が設計し、1960年代初頭に政府の依頼でSRIが設置した4基のアンテナのひとつに数えられます。当時のディッシュ運用責任者はジョージ・ダーフィー(George Durfey)でした。

(SRIディッシュのメイキング動画)

さらに詳細を知りたいと思った私は、記憶の宝庫であるドン・ニールソン(Don Nielson)に相談しました。私とってニールソンは、いわばSRIの「レジデントヒストリアン(常任の歴史家)」です。彼によると、ディッシュの運用が始まったのは1963年でした。
「ディッシュをつくったのは、冷戦中に2つの重要なニーズに対応するためだった」という言葉に続けて、「1つ目のニーズは、自分たちの防衛レーダー能力を調査し、米国に対して核攻撃があった場合に、そのレーダーが機能して我々を守る為に重要な役割を果たせるのかを知ること。2つ目は、当時のソビエト連邦で稼働する大型レーダーの特性を米国政府が把握するための収集ツールとするためであった」と語りました。
しかし、スタンフォード大学には主たる利点がないことから、これら2つの理由には、どこか違和感があります。

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(ディッシュ開発を後押しする内容が記されたメモの写し)

しかし、1960年代の初頭、ディッシュの電波をターゲットに到達させる助けになり得るような、大きくて信頼性のある衛星が存在することがわかりました。そう、それは「月」です!
「月は正しい位置にあれば、反射体として非常に実用的であることがわかっている」とドンは教えてくれました。
人生においては、時には無情にも当初の計画を外れて、物事が突然に意外な方向に進むことがあります。ディッシュの場合には幸いにも1つ目の目的、つまり核爆発で破壊された電離層に信号を送信するという目的を果たす必要がなくなりました。
しかしその後、電離層研究のための調査にディッシュが利用されたことがあった、とドンは認めています。
一方2つ目の目的については、ディッシュは当時のソビエト連邦の強力なレーダーを確実に傍受し、信号のもつ特長の解析を行い、目的を果たしました。この調査はSRIではなく、現地の防衛関連企業が請け負いました。
「ディッシュは当初の用途を超えて、その有用性により他のさまざまなミッションに利用された。そのほとんどは、衛星通信やテレメトリ(遠隔測定)、衛星のメンテナンスと関係するものだった」とドンは述べました。
さらにドンは、ディッシュは太陽周回軌道を持つ当時初のパイオニア衛星をはじめ、ある段階で太陽系を離脱したアポロ衛星や、金星を周回し大気分析に貢献したマリナー宇宙探査機にとって重要な送受信設備であったと加えています。
『SRIジャーナル』の1982年11月号には「SRIの有志が『ビッグディッシュ』で科学宇宙衛星を救う」という、印象的な見出しの記事が掲載されました。当時のSRI放射線物理学ラボのディレクター、ロバート・レナード(Robert Leonard)率いる科学者チームは、軌道を離脱できなくなったNASAの宇宙衛星を支援するためにディッシュを用いました。ディッシュのアンテナから強力な電波信号を送って衛星を制御し、5カ月以上も地上からの信号が遮断されていた不具合を修正したのです。
当時の記事には素晴らしい写真(下)が掲載されています。

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喜ばしいことに、設営から60年近くが経過した現在も、ディッシュは小型人工衛星CubeSat(キューブサット)プロジェクトを支援する新しいミッションに利用されています。SRI応用物理学研究所でのディッシュのマネージャーであるジェフリー・キャスパー(Jeffrey Casper)は、「ディッシュは最近も、NASAの火星探査機インサイトと、同時に打上げられてインサイトと一緒に火星まで飛行した小型人工衛星マーズ・キューブ・ワン(MarCO)のミッションを支援するために使用された。これは、2018年の5月から7月にかけてのことだ」と述べました。
電波望遠鏡の歴史や詳細よりもハイキングの方が好みという方も、サンフランシスコ半島の屋外に鎮座する、半世紀以上の年月を誇る価値ある名所「ディッシュ」に是非お出かけください。ディッシュの周辺には3.5マイル(約5.6キロメートル)の上り坂のハイキングコースがあり、ちょっとした歴史を感じることが出来るほか、サンフランシスコやオークランド、サンノゼをはじめ、イーストベイ地区や海岸沿いの山々の壮大な景色を楽しむことができます。
ディッシュは、これまで多くの目的を果たしてきましたが、我々SRIはディッシュにもう1つ目的を果たしてもらう事にしました。ただし今回は、ディッシュ(皿)だけに、違う"スピン(回転)”を効かせて・・・これはジョークです。
組織のコミュニケーションに重点をおく私たち新チームは、その活動の一環としてこのブログを立ち上げました。このブログ記事のように、SRIがこれまで開発した素晴らしいテクノロジーに光を当てるためです。
そして、この「ブログ」に最適な名前について議論した結果、今回のようなメタファー(隠喩)を含む言葉遊びを交えながらSRIのすべてをご紹介するのが良いのではないかと考えました。私たちは、SRIで今後開発される数多くの素晴らしいテクノロジーについて、その真相や裏話を「ディッシュ(提供する)」の名のとおり、皆さまに共有できることを楽しみにしています。
最後に、かつての衛星追跡プロジェクトについて話してくれたニール・スタッフォードの言葉を引用します。

「もしディッシュを他のことに使えないなら、あってもなくても同じだ」

スタンフォードディッシュの歴史を詳しく知りたい方は、下の動画をご覧ください。

筆者:Reenita Malhotra Hora/ SRI International (Director of Marketing & Communications)

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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