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SRIの75年間のイノベーションについて: CMOS(相補性金属酸化膜半導体)

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

高速で消費電力が少ない「金属酸化膜半導体」の開発

現在のデジタル技術に繋がる2つの興味深い出来事が1965年に起こりました。まず、インテルの共同創業者であるゴードン・ムーアが、「集積回路に含まれるトランジスタの数、つまり回路の計算能力は2年ごとに2倍になる」という「ムーアの法則」と呼ばれる経験則を発表しました。

このように能力が2倍化していった結果、コンピュータの性能は向上し、コストは低下していきました。このペースを維持するには継続的な技術の進歩が必要でしたが、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor―相補型金属酸化膜半導体)の開発により、半導体集積回路技術は飛躍的に向上しました。

CMOSは、David Sarnoff Research Center(デイヴィッド・サーノフリサーチセンター:現在はSRIインターナショナルの一部)のイノベーターにより生み出されたものです。CMOSのテクノロジーはマイクロプロセッサーの製造に広く採用されており、今では世界中のほどんどの電子回路に組み込まれています。それでは、CMOSがどのように処理速度の向上と消費電力の省力化を達成したのかをご紹介します。

CMOSはいかにコンピュータの高速化と消費電力の省エネ化を実現したのか


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CMOSの登場以前に主流であったのは、バイポーラトランジスタ(Bipolar Transistor)でした。この技術は、高速スイッチング回路を実現した一方で、電力消費量が比較的大きく、電池による駆動が困難な課題となっていました。電子機器にとって、電力消費量が大きいことは避けたいものです。CMOSは、消費電力と速度の指標を変えるほど、エレクトロニクスの世界に革命をもたらしました。そして現在は、CMOS回路はマイクロプロセッサーやモバイル端末用画像センサーなどの電子部品に広く採用されています。

1970年代、初期のマイクロプロセッサーにはNMOS(N型半導体)技術が使われていました。NMOSは、集積回路の論理ゲートに負の電荷egative型)のみを印加します。NMOS回路は高速かつ性能が高い反面、電力消費が大きいという欠点がありました。CMOSは、論理ゲートに負と正の電荷Negative型とPositive型)を相補的かつ対称的に印加することにより、回路の速さを維持しながら消費電力を削減することができるのです。

CMOSは、元は1965年に米空軍の回路設計プログラムの一環として開発されました。開発したのは、David Sarnoff Research Center(現在はSRIインターナショナルの一部)のGerald Herzogが率いるチームでした。このプログラムでHerzogたちは、288ビットのスタティックメモリ集積回路を開発しました。この初期段階の開発で金属酸化膜半導体が開発され、小型かつ低消費電力の電子機器の開発へとつながり、今日の携帯端末の実現を可能にしました。CMOS回路は電力消費が非常に低かったため、高密度のチップでも少ない電力で作用するようになったことからチップの高効率化と高性能化が進み、「ムーアの法則」が実現することになったのです。

CMOSの多種多様なアプリケーション

CMOSは、多種多様なアプリケーションに採用されています。SRIによるCMOSの展開例を2つご紹介します。

・NASAのパーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)
太陽に接近してそのダイナミクスを観測する探査機のパーカー・ソーラー・プローブは2018年8月12日に打ち上げられました。SRIインターナショナルは、パーカー・ソーラー・プローブに搭載された映像機器にCMOSテクノロジーとSRIのその他のイノベーションを採用しました。探査機に搭載されたのは、アメリカ海軍調査研究所が開発した太陽探査機用広角画像装置(WISPR:Wide Field Imager for Solar Probe)です。この装置には、SRIのアクティブピクセルCMOSセンサーを採用したコロナグラフ望遠鏡が2台搭載されています。このCMOSセンサーは、コロナ質量放出や太陽風など、太陽の大気の高解像度画像を撮影します。このプロジェクトの技術革新により、SRIインターナショナルは2020年にエジソン賞を受賞しました。

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・昼夜を問わず撮影可能な低照度NV-CMOSイメージセンサー
SRIインターナショナルは、イメージング技術の開発において豊富な経験があり、CMOSはイメージング技術の限界を拡張する上で重要な役割を果たしています。SRIは最近、NV-CMOS™と呼ばれる新しいタイプのCMOSを開発しました。NVとは「暗視(Night Vision)」を意味していて、NV-CMOSイメージセンサー技術は明るい太陽光から星明かりまでフルレンジの明るさにて画像を撮影することができます。SRIは2019年に米国陸軍のIVAS(Integrated Visual Augmentation System「統合型視覚支援システム」)プログラムを支援するため、デジタル暗視カメラの開発に着手しました。このプロジェクトでは、低照度対応のNV-CMOSイメージャーを最高度に小型化、軽量化、省電力化するように設計されたカメラモジュールに統合しました。

「技術の発展」とは水の流れのようなもので、あるものが別のものにつながり、そしてまた別のものにつながっていきます。CMOSテクノロジーは、低消費電力の高速マイクロプロセッサー開発への道を開き、更に他の技術革新への足がかりともなりました。CMOSによる「小型化と省電力化」はさまざまな技術への扉を開き、デバイスによる現在のプログレッシブ方式のイメージングを可能にしたのです。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

(参考資料)
Intel Museum, Gordon Moore: https://www.intel.co.uk/content/www/uk/en/history/museum-gordon-moore-law.html 
SRIインターナショナルの「CMOSイメージ・センサー」を活用した太陽系探査(日本語ブログ):https://dish-japan.sri.com/n/n0e28ab93d14b 

https://www.sri.com/hoi/nasa-parker-solar-probe/
https://www.sri.com/hoi/cmos-integrated-circuit/
https://www.sri.com/publication/low-light-nv-cmos-image-sensors-for-day-night-imaging/
https://www.sri.com/press-release/parker-solar-probe-edison-award/

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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