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「医療提供のあり方」を変えるSRIのAI技術

「遠隔医療」を活用した患者の安全な治療を世界中の政府が医療従事者に奨励

SRI InternationalのAdvanced Computer ScientistであるEric Yehは、人工知能(AI)が医療分野に与える大きな影響をよく理解している人物です。Yehには現実に起こっている問題の解決に向け、AIを適用・適応させてきた長年の経験があり、SRI Internationalの人工知能センター(Artificial Intelligence Center)でこの画期的な取り組みを続けています。

その画期的なプロジェクトの1つが、SRI Ventures(SRI Internationalのコーポレートベンチャー部門)のスピンオフ企業である「Decoded Health」です。同社が開発したのは、AIと自然言語処理(NLP: Natural Language Processing)を使用して、医師がより多くの患者を担当でき、かつ同時にケアの質を向上させるロボット処理自動化(RPA: Robotic Processing Automation)プラットフォームでした。NLPは、メモや患者とのやり取りの書き起こしや分析のために医療分野で広く使用されています。

ところがDecoded Healthは、これをさらに発展させました。まず、患者は自分自身の言葉で症状を伝えることが可能です。これはほとんどのやり取りがオプション選択と1〜2語の回答に限られるような分野にあっては非常に独特な機能です。Decoded HealthはNLPと複雑な機械学習を組み合わせ、患者の訴えに対する自然言語理解(NLU: Natural Language Understanding)を強化します。つまり、単に「胸が痛い」ではなく、「胸の上に象が座っているような感じ」と伝えることができるのです。人間の臨床医が患者の症状を把握して正確な診断につなげられるよう、患者の話のニュアンスを捉えることができます。さらに、RPAプラットフォームは、患者が訴える症状、電子カルテの既往歴、標準治療ガイドラインの診断・臨床基準に基づき、個人に合わせた推奨事項を生成します。Decoded Healthの包括的アプローチにより、プライマリーヘルスケアの精度と効率のいずれも向上させることが可能です。

市場向けにNLPを変革・転換

Yehの説明によると、Decoded Healthが当初扱っていたのは、医療以外のかなり焦点を絞った分野を対象としたアプリケーションでした。ARSENALという名のこのアプリケーションには、非常に特殊な目的がありました。それは、ハードウエアの長い説明書の文章の処理・分析で、Yehは「これまで読んだ中で最もドライな資料の一つ」と言います。もっとも、Yehも指摘していますが、機器類の説明書の文書には例えば「電子レンジの使用中はそのドアを必ず閉てください」といった重要情報が含まれています。オリジナルのARSENALアプリケーションは、NLPを使用して大量のテキストから最も重要な情報を抽出していました。

「NLPの目的は、書かれたり話されたりした“人間の言語”から派生したものを理解することです。SRI Venturesから、この元々のモデルを医療分野での臨床目的に応用できないかという働きかけがありました」とYehは述べています。その結果生まれたのがDecoded Healthであり、これは音声認識に関するSRIのイノベーションの長い歴史の中でも最新の成果です。

Decoded Healthが行ったのは、患者の会話中に感情的な手がかりを探す分析など、他のSRIのAIおよびNLP技術とARSENALを統合することです。これにより、全体的な臨床評価の一環として、患者の精神状態に関する知見を医師に提供し、豊富な情報に基づいた治療計画を立てることが可能になります。Decoded Healthの強みは情報を正確に収集・解釈する能力にあり、この新たなプラットフォームを通じて医師がこれまでより多くの患者を診察できるようにする一方、ケアの質も向上させます。

先進的な遠隔医療を適切なタイミングで

新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受けて「遠隔医療」の利用が大幅に拡大しましたが、遠隔医療が多くの場所で行われ、遠隔医療がいかに有用かつ効果的であるか実証する結果となりました。遠隔医療は普及が進み、患者を安全に治療するために使用するよう世界中の政府が医療従事者に奨励しています。Decoded Healthの開発は新型コロナ感染症流行のかなり前に始まっており、緊急治療が必要な場合には特にこのプラットフォームが役立つと判明しています。新型コロナによる症状の多くは、心臓発作や肺炎など他の病気と似ていますが、Decoded Healthは患者の自然言語による症状説明の会話から、医師がより良い質問をして病気を判別できるようにします。

さらに重要なことに、新型コロナ流行以前から医師が不足していた国では、Decoded Healthプラットフォームが驚異的な効率改善をもたらしました。そのため、一般の患者がすぐに医師の診察を受けなければならない際に、治療の需要の増大に対応することが可能になっています。

YehとDecoded Healthのチームは、機械学習、医療IT(情報技術)、臨床医療の分野であわせて60年超の経験があります。YehはSRIの一員でいることを楽しんでいて、その理由を次のように語っています。「ダイナミックな環境であり、個人が実際にプロジェクトを実践できる数少ない場所の1つです。SRIの誰もがとてもクールなテーマに取り組んでいます。2、3年ごとに新しい仕事に就いたような感じがして、本当にエキサイティングです」

実際に、SRI InternationalとSRI Venturesはいずれも、その画期的な製品に関して高い知名度と評判を誇っています。Decoded Health以外にも、Curie AIなど、SRIの技術は他の医療アプリケーションでも使用されています。Curie AIもSRI Venturesの医療スピンオフ企業であり、呼吸困難の症状を客観的に定量化して「新たな5番目のバイタルサイン」を計算する革新的なAIを開発しました。この技術により、慢性/急性呼吸器疾患を持つ高リスク患者に対する、予防的介入治療の基準が大きく変わっています。Curie AIのソリューションは状態悪化の早期検出を実現し(標準のバイタル測定のみの場合と比べて2~4日早い)、救命実績を向上させて入院などのマイナスな事象を防ぎ、患者の回復を早めています。

2019年現在、SRI VenturesはDecoded HealthやCurie AIなど50社以上のスピンオフ企業を立ち上げており、その時価総額は200億ドルを上回っています。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考文献
Statista. https://www.statista.com/statistics/1037970/global-healthcare-data-volume/

Curie AIについての日本語ブログ:Curie AIによる、COVID-19を含めた慢性呼吸器疾患に対する標準治療の変化

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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