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熟練された技術労働力の拡大:米国の労働力不足に対する1つの答え

テクノロジーにより産業や労働が変化する中、競争力のある包括的な経済の構築に不可欠なもの

労働市場の厳しい状況が続く中、経済と労働力開発の現場では、労働力不足の解消と公平な成長の促進に大きな関心が集まっています。

そして、仕事や作業を「どのように」進めるのかという問いに直面したとき、熟練の技術者にその答えの1つを見出すことができます。

STW(Skilled Technical Workforce:熟練技術労働力)とは、科学、技術、工学、数学(STEM)分野の労働力のうち、技術的なスキルと知識を必要としつつ、学歴として学士号未満の者を指します。STWは米国の労働力の約20%を占めており、コンピューターのサポートのスペシャリストや産業エンジニア、電気技師などの職種がSTWにあたります¹。

テクノロジーによって産業や仕事の内容が変化する中、STWの拡大は競争力のある包括的な経済を構築するには不可欠です。STWの拡大に向けた戦略や政策立案を支援するにあたり、SRIは産業界や州、地域による需要を数値化して、労働力プログラムの整備状況を評価できる新しいアプローチを開発しました。

「不可欠」であることを認識する

テクノロジーとオートメーションの活用が普及したことで雇用が縮小している産業も一部ありますが、新しいテクノロジーを維持・運用するSTWやミドルスキルの労働力に対する需要は高まっており、求められるスキルの幅が広くなってきています。実際、この10年間でSTWの成長率は他の職種を上回っており、学士号を必要としない職種ではSTWの失業率が他の職種よりも低くなっています²。

しかし、全米のコミュニティカレッジの修了率が全国的に低いことや研修プログラムが十分でないこと、資格や経験の互換性の欠如(州ごとに資格や免許の書き換えが必要など)、特定のSTW職種への認識が正しくなかったり時代遅れであること、そして離職に歯止めがかかっていないことなどの理由から厳しい状況となっています。その結果、今年は熟練技術者の求人数が求職者数を約340万人も上回ると予想されています³。

これらの課題に取り組むことは、深刻な労働力不足に対処するだけでなく、中間所得層、とくに有色人種の雇用への道を開くには不可欠なことです⁴。STWなどの中間所得層の仕事は、地元住民、特に学士号を取得していない人々の収入増加に寄与します。

Upjohn InstituteのTim Bartik氏による最近の研究では、「典型的な労働市場では、多くの製造業関連の仕事を多く含んでいる中間所得層の仕事を創出することが地域住民の実所得を大きく増やす唯一の手段である。高所得の職業は教育水準が低い層は就くことができず、その地域の物価水準にも見合わない。一方、低所得の職業は、多くの住民の所得を押し上げることには繋がらない。」と指摘しています⁵。さらに、STWに就くためのキャリアパスは多様であることから、STWは米国の労働人口の人種・民族構成をかなり忠実に反映しているのです⁶。

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しかし、重要なのは、他のSTEM系の職種同様にSTWは今も男女格差が大きいということです。女性の参入を増やすことを考慮しつつSTWを拡大させることは、地域社会や経済的な幸福を増強する、包括的なイノベーション経済を構築するために欠かせません。

データで牽引する

経済の発展に関連する組織と人材育成プログラムがギャップを理解し、リソースを調整してより機敏にSTWを支援できるように、SRIインターナショナルのイノベーション戦略・政策センター(Center for Innovation Strategy and Policy:CISP)は求人データベースからSTW及びSTW関連のポジションに対して採用側が求める現在のスキルを特定する独自のデータ分析アプローチを開発しました。そして、これらのスキルを教育プログラムの標準カリキュラムにマッピングして、STWの育成を目的とした研修プログラムの過不足や改善点を分析します。

エネルギー集約型産業である製造業のエネルギー効率を向上させる大規模な取り組みが今後数年間続くと予測されることから、ある連邦機関は、エネルギー効率に関連するスキルとして何が求められているのか、また学生が社会人になる準備を整えるにはどのような教育訓練プログラムが最適なのかについての分析を求めました。SRIのスキル需要分析では、製造業の企業が求人票で求めるスキルを特定し、これに関連する準学士号や資格プログラムとのマッピングを実施しました。この分析により、熟練技術労働者が身につけている検査、機械、予防保全に関するスキルは、エネルギー効率が高い機器を使用した新しいアプリケーションにも転用することが可能であり、適用できる機会が幅広く存在していることが明らかになりました。

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整合性と包含性

SRIは先進製造業や情報技術(IT)、電気自動車などの特定産業における熟練技術労働者の成長に必要な条件を測定すべく、いくつかの州の経済開発に関連する組織と共同でスキルに対する需要分析も行っています。「資格・学歴偏重主義」や「学歴インフレ」と呼ばれる、学歴に関する要件を採用側が重視する傾向があり、職務に必要な実際のスキルを見えづらくしてしまうことから、学位を保有していないが関連スキルや経験を身につけている大勢の人が事実上排除されてしまう可能性があります。これに対し、SRIのスキル需要分析はスキルに焦点を当て、イノベーション経済から取り残される可能性が高い人々の潜在力を識別し、このような人材の包括的な成長を促進します。このアプローチは採用側のニーズを満たしつつ、地域社会の課題と改善機会に寄与するとともに、貴重な労働力である技術者に直接関連する投資や戦略として整合して実を結んでいます。

著者: Christiana McFarland, Christa Reid, Michael Lee, Gigi Jones SRIインターナショナル, イノベーション戦略・政策センター(Center for Innovation Strategy and Policy:CISP)

参考資料:
[1] Consortium of Social Science Associations. 2020. STEM and the American Workforce: An Inclusive Analysis of the Jobs, GDP and Output Powered by Science and Engineering. https://www.cossa.org/wp-content/uploads/2020/02/AAAS-STEM-Workforce-Report_1-24-2020.pdf

[2] National Science Board, National Science Foundation. 2021. The STEM Labor Force of Today: Scientists, Engineers and Skilled Technical Workers. Science and Engineering Indicators 2022. NSB-2021–2. Alexandria, VA. https://ncses.nsf.gov/pubs/nsb20212

[3] National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2017. Building America’s Skilled Technical Workforce. Washington, DC: The National Academies Press. https://doi.org/10.17226/23472

[4] National Science Board, National Science Foundation. 2021. The STEM Labor Force of Today: Scientists, Engineers and Skilled Technical Workers. Science and Engineering Indicators 2022. NSB-2021–2. Alexandria, VA. https://ncses.nsf.gov/pubs/nsb20212

[5] Bartik, Timothy J. 2022. What Types of Local Job Creation Most Benefit Residents? Policy and Research Brief. Kalamazoo, MI: W.E. Upjohn Institute for Employment Research. https://doi.org/10.17848/pb2022-48

[6] National Science Board, National Science Foundation. 2019. The Skilled Technical Workforce: Crafting America’s Science & Engineering Enterprise. NSB-2019–23. Alexandria, VA. https://www.nsf.gov/nsb/publications/2019/nsb201923.pdf

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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